工場の困ったイマを解決し、町工場のアスになる。
第140回 かわさき起業家賞
会社紹介
私たちは、愛知県春日井市で約70年の歴史を持つ金属加工会社です。主な製品は大手電機メーカー製エレベーターの構造部品等ですが、近年は強みである大型構造物の製缶技術を活かし、プラント設備や工場専用機のフレーム製作などにも仕事の幅を広げています。
昨今の円安を追い風に製造業の大手企業は軒並み最高利益を更新しており、国内回帰の声も聞かれるようになりました。しかし、実際のものづくりを行う町工場に目を向けると、技術や雇用の国外流出、労働者不足など、問題が山積みです。中でも事業承継に悩む工場は後を絶たず「後継者がいない」だけでなく「会社を子どもに継がせたくない」といった声を数多く聞くようになってきました。何より私自身が、かつては「継ぎたくない」と考えていた、3代目のアトツギ社長です。
いまでは自分が親となり、息子に会社を継がせるべきかどうか、明確な答えを出せずにいます。だからこそまずは「子どもたちに“継ぎたい“と思える製造業の未来を築くこと」が、私たちに課せられた使命なのではないかと感じるようになりました。ASNARO(アスナロ)によって、製造業界が魅力ある場所へと変わることを願っています。
基本情報

株式会社丸菱製作所
〒486-0807
愛知県春日井市大手町 字川内1045
受賞したビジネスに至った経緯
ある協力会社の社長さんから「この設備が壊れたら、工場を辞めるよ」と言われてショックを受けたことが、この事業を立ち上げたきっかけです。「仕事の増減が多いうえ、5年先に仕事があるかどうか分からないのに、30年後にやっと元が取れるような投資はできない」という判断でした。本当にその通りだと思いましたし、これは他人事ではないという危機感を抱きました。
大量生産や手ごろな仕事は海外に流れ、不安定で負荷変動の大きな仕事ばかりが国内に残る。それなのに、私たちのような下請けの町工場は、大手メーカーなどの取引先に依存する「一本足打法」の経営から抜け出せずにいます。今までは「お得意様第一」の方針で安定した仕事を得てきましたが、時代の変化により仕事が激減した町工場は限界を迎えています。しかし、いたずらに新規顧客開拓を進めるだけでは既存の仕事とスケジュールや納期が重なり結果的にお客さまへ迷惑をかけることがあったり、かえって繁閑の波を大きくしてしまう状況になったりすることもありました。新しい挑戦をすることはもちろん必要ですが、リソースが限られる中小企業が活用できる枠組みがやはり必要だと強く感じたのです。
例えば、仕事の閑散期に空いている技術や設備をシェアしたり、得意分野の違う工場と連携して新しい仕事を取ってきたりすることはできないか。また、営業がいない工場のために、新規開拓の窓口になるような仕組みはつくれないか。それができれば、得意先からの仕事量の増減に振り回されず、柔軟に対応することができるはずです。既存のもので、そういうサービスがないかと探しましたが、適切なものは見当たりませんでした。それなら私がつくるしかない。「製造業をみんなで支え合えるようなインフラをつくろう」と決意して、ASNARO をスタートさせました。
サービスの特徴

私たちは、ASNAROを「製造業のフリマサイト」と位置づけています。受注側、発注側の双方にとって利便性の高いサービスを実現するには、入札型や商社型ではなく「フリマ型」の仕組みが一番良いと考えたからです。
製造業での注文・受注の仕組みは、発注側が受注側に仕事を振る、いわゆる「上意下達」のスタイルが一般的です。よく「下請けに出す」という表現が使われますが、この形では価格競争になってしまうことを避けられません。そこでASNAROは、発注側と受注側が対等な関係を築けるサービスになることを重要視しました。
閑散期に仕事を発注していただけるのはもちろんありがたいですが、どこも断られてしまうような繁忙期に仕事を受けてくれる工場も、感謝すべき存在です。発注側と受注側がお互いに「ありがとう」と言い合える関係性になることが、これからの製造業界とって重要であると考えています。また、工場が空いているときだけのスポット取引ができることもASNAROのメリットです。気軽に話ができる関係性を築けたり「次はこちらから仕事を回すよ」と声を掛けたりできるような、新しい横のつながりが生まれることを期待しています。
現状の課題
ASNAROは「町工場が持つ技術」そのものを商品として取引できる市場をつくることもめざしています。日本は人口減少や高齢化が進み、人手不足がさらに深刻になるはずです。もちろん、ものづくりの現場でも自動化や無人化、AIの導入などが必須となってきます。製造の仕事は規模の大きい企業に集約されていくかもしれません。
しかし、だからこそ人の手が必要な仕事が中心だった、私たち町工場の新しい可能性が拓けるのではと考えています。「この会社や、この人ではないとできない」といった人のかかわる技術の希少価値が、ものづくりの価値そのものを向上させ再評価することにつながるはずです。ASNAROは、そういった価値観の変化を後押しする存在にもなれると考えています。
そのためには愛知県だけでなく、日本全国にASNAROのネットワークを広げ、さまざまなコミュニティを横断的につなぐインフラにする必要があります。会員企業が増えれば管理は難しくなりますし、たくさんの取引をどのようにフォローしていくかもまだ定まっていません。私たちは、これまで全国規模の大きなサービスを立ち上げた経験がありませんので、すべてが初めての挑戦となります。まずは、日本各地で取引を任せられるパートナーを見つけることを目標に、歩みを進めていきます。
今後の展開
2025年は労働人口が大幅に減少し、製造業にとって転機の年になるだろうと考えています。町工場をはじめとする国内のものづくり事業者はここ20年で大幅に数を減らしており、中でも従業員30名以下の小規模な町工場は44%にまで減少しました。大手メーカーのサプライヤーとして、実際にものづくりを担っている工場が半分以下になってしまっているということです。こうした状況のなか、ASNAROは製造業にとって必要不可欠なサービスに成長していくだろうと予想しています。
そこで、まず2025~26年を目標に中部地方でこのサービスを確立し、利益を確保することをめざしています。中部地方ではすでに手応えを感じており、会員企業からは多くの期待の声をいただいています。そして、2026~27年には全国展開をスタートし、日本各地でASNAROを利用する企業が増えるような形にしていきたいと思っています。
パートナー企業との連携で実現したいこと
ASNAROは、町工場同士の取引だけにとどまらず、幅広い用途で活用できるサービスです。ものづくり系のスタートアップ企業で、自社でサプライチェーンを構築する資金が不足している場合でも、町工場のリソースを活用すれば事業を進めることができます。スタートアップの経営者はもちろん、彼らを支援するVCやCVCなどの方々にもぜひ、ASNAROに注目していただけるとうれしいです。
また、板金や塗装などの中間工程を担当するサプライヤーは、自ら他の工場に応援を頼んだり、新規顧客を開拓したりすることが難しいのですが、ASNAROを活用すれば協力してくれる工場を見つけることができます。他の工程を補完してくれる町工場を自ら探し出すことで、主体的に仕事を獲得する可能性も広がるはずです。
このように、さまざまな角度からASNAROを活用していただけるよう、パートナー企業のみなさまに積極的にアピールさせていただきたいと考えています。
