リーガルサービスを全ての人に「オンライン法律相談サイト」
第140回 かわさきビジネス・アイデアシーズ賞
受賞者 自己紹介
離婚、相続、事故、ハラスメントなどの法的トラブルを抱える人は年間約1500万人にのぼります。ところが、そのうち弁護士に相談した人は約300万人。つまり、法的支援を必要としているにもかかわらず、実際に支援を受けられている人はわずか2割に過ぎないということです。これは「2割司法問題」と呼ばれ、大きな社会課題となっています。この問題を解決し、必要としている人に適切なリーガルサービスを届けたい。そんな想いから、この事業を立ち上げました。
私が弁護士の道を志したきっかけは、高校生のときに読んだ新聞の連載記事でした。公設事務所(弁護士会が運営する法律事務所)の所長が執筆した記事で、その内容に強く心を揺さぶられました。「法的トラブルに悩む人は大勢いるにもかかわらず、一般の人にとって法律は身近なものではない。そして国も、法律はつくるけれど、それを人々に説明し教育する仕組みを整えてはいない。では誰がその役割を担うのか――それが弁護士である」と。これを読んで私は「自分が弁護士になり、この役割を果たそう」と決意しました。この事業を通して、誰もが気軽にリーガルサービスを利用できるようになる社会を築くことをめざしていきます。

基本情報

ダンウェイ株式会社
〒211-0044
神奈川県川崎市中原区新城1-12-15
アムールスクエア新城201号
受賞したビジネスに至った経緯
近年、クリニックの診療、英会話、ヨガ教室など、さまざまな分野でオンラインサービスが浸透し、時間やコストを削減できるメリットが広く認識されるようになりました。それならば弁護士業界にも「オンライン法律相談」という仕組みがあってもいいはずです。そう考えたことが、このビジネスのヒントになりました。レストランや美容院と同じような気軽さで、法律相談の予約を取れるようになれば、もっと多くの人が法的支援を受けられるようになるはずです。
一般の方が法律相談を受けにくくなっている要因の一つに、弁護士側の事情があります。弁護士の中には「1時間ごとに〇〇円」といった単発の法律相談を受けるより、大きな裁判案件を受任し、高額な着手金を得るほうにメリットを感じる人も少なくありません。その結果、相談業務よりも裁判案件の受任が優先され、本来なら誰もが気軽に利用できるはずの法律サービスが、一般の方に届きにくいという状況が生まれているのです。この課題を解決するためには、各々が抱える問題やトラブルにマッチする弁護士を探し出すことが必要です。そのためにも、オンライン法律相談は有益な手段になるだろうと考えました。
とはいえ、法律の知識や業界経験のない人が、オンライン法律相談のシステムを構築するのは難しいという現実もあります。法律相談には業界特有のプロセスがあり、英会話などの一般的なオンラインサービスとは仕組みが大きく異なるからです。法律相談の進め方や弁護士の回答、相談時に生じやすい課題など、業界ならではのポイントを理解していなければ実用的なものになりません。その点において、弁護士の知識と経験がある私であれば、より多くの人が使いやすいシステムをつくれるはずだと確信し、事業を立ち上げることになりました。
サービスの特徴

「いつでもどこでも弁護士に相談できる」これが、このサービスの大きな強みです。法律相談を受けるときには、まず法律事務所を探し、日程調整をすることから始まります。指定された日に合わせて休暇を取らなければならないこともあるでしょう。この煩雑さも、法律相談へのハードルが上がっている要因の一つです。そこで当サービスでは、カレンダーから空いている時間を選んで予約が完了できる仕組みにしました。自分の都合を優先して相談日を決められますし、オンラインなので自宅や職場からも相談できます。
また先述のように、弁護士は案件化できない問題を敬遠する傾向があります。一方で「さまざまな案件にかかわって経験を積みたい」と考えている弁護士は、内容にかかわらず、積極的に法律相談を受けつけています。ここに注目し、このサービスでは弁護士を「相談担当」と「案件担当」の2つに分けています。相談担当は、若手やまだ経験の浅い弁護士が対象です。彼らは法律相談で経験を積みながら、実務スキルを高める機会を得られます。そして案件化して進めることになった場合は、経験豊富な案件担当の弁護士にバトンタッチします。このように弁護士のキャリアに応じた役割を設定し、相談の段階で案件内容を整理したうえで、最適な弁護士へと引き継ぐ仕組みになっていることも、当社のサービスならではの特徴です。
現状の課題
サービスを広めるうえでの最大の課題は、相談者への認知と流通です。広告やマーケティングの効果には限界があるので、自治体や企業など、法律相談を必要とする個人が集まる場所にこのサービスを届ける仕組みを構築したいと考えています。また、スポーツクラブやフリマアプリのように、個人同士のつながりが強いコミュニティと連携するのも有効かもしれません。
組織としての課題は、開発体制の強化です。現在は、業務委託のエンジニアに開発を依頼していますが、将来的には内製化を進め自社で開発を担える体制を整えることが目標です。資金調達についてはベンチャーキャピタルからの出資の目途が立ちましたので、順調に進めば、2025年度中には事業を本格的にスタートできる見込みです。
今後の展開
このオンライン法律相談プラットフォームは、リーガルサービスを必要としている方々にソリューションを届けるための手段の一つに過ぎません。今後は、案件を受任した後の処理や業務オペレーションの改善に取り組み、法律業務全体の効率化を図ることで、より多くの人がスムーズにリーガルサービスを受けられる仕組みを構築したいと考えています。
そして私の最終的な目標は、法律事務所の買収や統合を進め、日本最大級の法律事務所をつくることにあります。昨今のアメリカの法律業界は、事務所の買収や統合が活発に行われています。AIや業務システムの進化により、膨大な時間と手間がかかっていた弁護士の業務が、半分ほどの労力でこなせるようになったことが大きな要因です。これまでの弁護士の働き方が見直され、事務所の運営スタイルも大きく変わりました。その結果、業界全体で統合の動きが加速しているのです。この流れは、いずれ日本の法律業界にも訪れるでしょう。その未来を見据えて、業務の効率化と事務所の統合を進めていきます。
パートナー企業との連携で実現したいこと
このサービスは行政や企業と連携することで、より多くの人に活用していただける可能性があります。例えば、多数の従業員を抱える大手企業と提携し、福利厚生の一環として従業員向けに法律相談サービスを提供するというのも一つの手だと思います。また、神奈川県や川崎市などの各行政機関でも、定期的に法律相談を行っていると思いますので、このオンライン相談システムを導入してもらうことで双方に新しい広がりが生まれるかもしれません。お互いにメリットを得ながら、より多くの方々が、気軽に法律相談を受けられる未来を共につくっていけたらうれしいです。