外国人労働者と職場を繋ぐAI、多文化共生ソリューション
第140回 かわさきビジネス・アイデアシーズ賞
会社紹介
当社はAIを活用したチャットボット事業や翻訳ソリューションを手掛けるスタートアップです。この会社を立ち上げる以前は、父親の事業を継ぐ形で、海外リゾートの経営をしておりました。当時は約300名の従業員を抱えており、その多くがフィリピンやネパールなど東南アジア出身の人たちでした。言葉の壁や文化の違いを乗り越え、ともに充実した仕事に励むことができたと思います。
その後、さまざまな事情によりホテルを売却することになりました。次の人生では、これまでの経験を活かして社会に貢献したいと考え、2019年に株式会社ObotAIを設立。今も従業員の半数は、外国籍です。
近年、外国人労働者と企業の間でのトラブルをよく耳にしますが、私の経験を踏まえると主な原因はコミュニケーション不足にあります。彼らはとても勉強熱心で働き者ですし、英語やそれぞれの母国語にも精通している優秀な人材です。彼らの持つ能力を最大限に引き出すことこそが、今後は雇用する側にとって必須と考えます。
外国人の方々が「日本は安心して働ける」と感じられる環境を実現し、少子化や労働人口の減少といった課題の解決に貢献できたらと思っています。
基本情報

株式会社ObotAI
〒105-7510
東京都港区海岸1-7-1 東京ポートシティ竹芝 10F WeWork竹芝
受賞したビジネスに至った経緯
「チャットブリッジ」は、AIと職場の多文化共生を組み合わせたサービスです。このアイデアを思い付いたのは2023年6月ごろのこと。技能実習生や特定技能外国人の増加に関するニュースを見た際に、問題意識を持ったことがきっかけでした。
現在、日本で活躍する技能実習生と特定技能外国人の数は合わせて約68万人にのぼります。年間20〜30%のペースで増加しており、対象業種も現在の12業種からさらに拡大していく見込みです。一方で日本の労働人口は急速に減少しており、これからの産業は外国人労働者に頼らざるを得ない状況になります。特に、飲食・介護・建設といった業界では、彼らの存在が不可欠になっていくと思います。
これまでは、原則として技能実習生の転職が認められていなかったため、職場に不満があっても簡単には辞められない状況でした。しかし、法律の改正により状況は変わりつつあります。2019年には、転職が可能な在留資格「特定技能」が新設されました。そして2027年には技能実習制度が「育成就労」へと変更され、転職の制限が緩和される見通しです。今後は給与に不満があったり、労働環境が悪かったりすると、外国人労働者はすぐに転職してしまうでしょう。そうなれば、採用や育成にかけた時間やコストが無駄になってしまいます。そのため企業側はこれまで以上に、外国人労働者の定着率を向上させる努力が求められます。
私は30年以上にわたり、東南アジア出身の方々と共に働いてきました。その中で、どうすればお互いにスムーズに仕事ができるのか、実体験を通じて学んできたつもりです。また、当社は自治体や訪日観光客向けに多言語ソリューションを提供してきたIT企業でもあります。前職での私の経験と、当社の技術力をかけ合わせれば、外国人労働者と企業をつなぐ架け橋になれるのではないか。そう考えたことが、このサービスを立ち上げるに至った経緯です。
サービスの特徴

「チャットブリッジ」は、外国人労働者、特に技能実習生や特定技能人材に特化したサービスです。現在、多種多様なAIによるソリューションがあふれていますが、外国人労働者のコミュニケーションに特化しているサービスはまだほとんどありません。一番の特徴は、独自技術により音声認識で文字起こしを行い、それをAIが自動修正する仕組みを採用していること。かなり精度の高いリアルタイムの同時翻訳を実現していますので、実際にご利用されると、他の翻訳ツールとの違いを実感していただけると思います。
また、企業ごとのルールや価値観、業界・専門用語などを基礎データとして登録し、翻訳に反映させる「文化翻訳」という機能を取り入れていることも強みです。使用を重ねるごとに新たなデータが蓄積され、翻訳の精度はさらに向上しますし、易しい日本語への変換も可能です。さらに、日本で生活する上で必要な資格試験の勉強や企業の業務知識を学べる「スキルアップチャット」や、日本での生活支援Q&Aページの自動生成する「Obot FAQ」などの機能も備えています。
現状の課題
サービスの課題として、ITに不慣れな方にも価値を感じていただけるような伝え方や、導入しやすい仕組みを模索しています。対応策の一つとして、「チャットブリッジ」をLINEなどの普段から使い慣れたSNSのグループに追加するだけで、すぐに利用できる仕組みを取り入れました。
組織としての課題は、いくつかの分類にわけることができます。まずは資金調達です。現在はまだ投資が先行している状態のため、今後は本腰を入れて企業活動の原資を集めていく必要があります。次に営業体制の構築です。最新の生成AI技術と外国人材のスペシャリスト、両方のナレッジをもつ営業人材を育て、営業活動を円滑に回せる仕組みづくりを早急に進めていかなければなりません。最後はマーケティングの検証です。や現在、オウンドメディアやセミナーでの集客を試行錯誤しながら進めていますが、このやり方が本当に効果的かどうか、どこかのタイミングで検証しなければならないと思っています。
今後の展開
直近1~2年の目標として、利用企業数を300~400社に拡大し、売上5億円を達成したいと考えています。サブスクリプション型のビジネスモデルなので、軌道に乗れば一気に成長できると期待しています。売上を10億円規模まで広げることができれば、上場も視野に入りますが、そこには私自身のモチベーションも重要な判断材料になります。M&Aを検討する可能性もありますし「この人なら社長を任せられる」と思える優秀な人材が見つかれば、その人に事業を託し、上場を目指してもらう選択肢もあります。おそらく今後2〜3年の成長次第で方向性が決まるでしょう。
また、現在は企業向けのサービスですが、将来的には企業と個人の双方に価値を提供できる事業も検討しています。例えば、「チャットブリッジ」の会話履歴や翻訳データ、学習の記録が分かる「スキルアップチャット」のデータは、個人のスキルや経験を可視化する「履歴書」のような役割を果たします。これを活用し、人材マッチングサービスのような形で展開できないか検討しています。ただし、実現には高度なシステムが必要となるため、市場の動向を見ながら慎重に進めていく必要があるとも考えています。
パートナー企業との連携で実現したいこと
パートナーとして特に期待しているのは、製造業界をはじめとした特定技能外国人を受け入れている業種・業界に強い各業界の商社のみなさまです。弊社がまだまだ営業力が弱いスタートアップ企業なので販売網をもっている各業界の商社の皆様との連携は非常に重要と考えます。また当社はシステムの受託開発も手がけておりますので、各業界の課題にフィットするシステムを提供することで、新たな展開が期待できるかもしれません。とはいえ、メインのサービスはあくまで多言語対応や外国人労働者とのコミュニケーション支援です。そのため、このサービスを広めてくださる販売パートナーと出会えることが最も理想的だと考えています。
